震災前後での生活の変化

お話:内海直子さん/女性/当時50代/心身障害児施設「マザーズホーム」元園長

内海さん個人のお話をお聞きしたいんですが、被災してもとの生活に戻れたなと実感したのはいつ頃でしょうか?

もとの生活…。微妙ですね。落ち着いたのは、マザーズホームが新しい場所に移って、しばらくしてから…5年目くらいですかね。

 

なるほど。マザーズホームが再建して安心して、それがなじんできた頃ですかね?

新施設になかなか入れないお子さんもいらしたので、みんなが安心して生活できてから、新しい事業のことについて考えられるようになってからですかね。

 

次の展開ですね。

はい。それは現状を踏まえたうえで次やろうかってことだったと思うので。

 

確かに余裕がないと考えられないですよね。

その日暮らしだったからね。5年くらいしてそれから震災後のいろんな片付けなどは終わりにしようと。やっぱり療育などを充実しなくちゃいけないよねって思い始めて。

 

3.11から退職されるまでの間で、一番大変だったことは何でしょうか?

いつも大変でしたけどね(笑)。一番大変だったのは…。8年も過ぎると、これが大変といったものはないんですけどね。仕事に関することじゃないんですけど、近所の方で亡くなった方がいらっしゃいまして。一人は娘の同級生で、市役所で亡くなって。一人は消防の方で亡くなって。ウチだけ助かったみたいなね、そういうのはしんどかったですね。それも華々しく取り上げられてしまっていますからね。それは今でもしんどいですけどね。

 

直接外部から言われたとか、そういったことがあったということですか?

言われたことはないです。ただ、亡くなられて申し訳ないなって勝手に思っているだけなんですけど。我が家で孫が生まれたとかってそういうことが言いにくいですよね。そういうところ

がちょっとしんどいですね。未だにね。ほんとうにいつ何があるか分からないから、一日一日頑張って生きるのが一番大事なのかなって思いますね。

 

一日一日を精いっぱいみたいな。

そうですね。だんだん年も取ってきてますし、もしかしたらあの時死んでいたかも知れないって思うことが今の力になるっていうか。だから毎日がありがたいなって思って。

 

内海さんのお話を聞く中で「一日一日を精いっぱい生きる」と「いつもと同じなのが大事」という言葉が印象的でした。

はい。あと必要なのは体力ですね。逃げるにしても人を助けるにしても体力がないと。本当に思いましたね。

 

なるほど。

ハシゴを上る時に一番思いました。サポートしてくれる男性もいましたが、これって体力がないと逃げられないなと。そして、避難所などでもインフルエンザにかかったりするでしょ。免疫力というか、体力がないとどうしようもないですよね。

 

今後地震が来ると言われる地域に住む人に伝えたいことはありますか?

現金を持っていることですかね。今はカードとかキャッシュレス化が進んでいますが、電気が止まれば使えませんからね。だから、息子達には言っています。せめて2万円くらいの千円札とコインを持っていろと。

 

これは意外と大事なことですよ。

多分ね。経験からくるものです。小さなことですけど、常に車のガソリンは満タンを心がけるとか、お風呂に入る時でもすぐに下着とか着られるように用意して入るとか。あと寝る時は服やスリッパを準備しておくとかね。できることはしといたほうがいいかなって。

 

今も備えているのですか?

備えってほどでもないんですが、ひとまとめにして、寒い時は雨や雪に備えて厚めの服も準備して。パジャマだけでは寒いから。津波から逃れても屋根の上で寒くて亡くなった方もいたでしょう?やっぱり人にとって寒さはだめなんだと思うんですよね。だから、冬の寒い時に何も来なきゃいいねって気がしますね。東北の人は寒さでやられるから、寒さ対策と体力作りとか、そういうところですね。とにかく自分が達者でないと人なんか助けられないですからね。

 

そうですよね。

自分のマインドがだめだったら、とても人なんて助けられないから…。辛いけど無理やり良い方向に考えていくとか。施設の職員はそうでなきゃだめじゃないかと思うんですよね。職員から暗い顔していたら、お母さん達だって大変だしね。そういう意味では職員が笑いあって過ごせたのは良かったかな。冗談を言い合ったり、食べ物を交換しあったり。ささいな事で笑ったりね。

 

普段から職員同士で良い関係が築けていたのが良かったですよね。

そうですよね。やっぱり笑い合える、許し合えるような雰囲気っていうのは家庭でも職場でも大事だなって。だから、助けられたし、いろんな人と繋がれて楽しかったなって。こうやって退職して家にいるようになると、本当にありがたかったなって思いますよね。

 

繋がりはどんな時でも大事ですよね。それとストレスのはけ口というか、発散する手段が大事ということですね。

大変ですけど、支援に来て下さる人には感謝したいですよね。だって私達が行くとしたら勇気がいりますよね。

 

私も思います。同じことが自分にできるだろうかって。

そうですよね。関西から軽自動車に乗って支援に来てくれた人とかね。すごいって思いますよね。できないなって。

 

本当に分からないですよね。

だから、まずは自分の身を助ける、それから周囲の人と助け合いながらやれる力っていうんですかね。お互いにムカッとする時もあるけど、こうやってよって思う時もあるけど、でもそこを取り繕っていくということも大事かと思いますね。やっぱり職員と利用者の間に溝ができるようなことがあると大変なので、そこをうまくまとめていく力っていうのも大事なのかなと思いますね。でも職員が一生懸命やっているとお母さん達は感じてくれるので。職員が前向きでいることは大事なのかなって思います。

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